英国には、ランニングを通じてつながる素晴らしいコミュニティがあります。大学の陸上部や地域のランニンググループ、全国各地で週末に開催されるイベントまで、ランナーたちは共に走り、励まし合い、スポーツを通じて長く続く仲間との絆を築いています。
しかし、ランニングは今なお個人のものとして捉えられることが多くあります。レース当日になれば、ランニングは再び個人競技となり、その結果は選手個人名とともに記録されます。
FT日経UK駅伝は、英国でその常識を変えます。
日本で長く親しまれてきた大学駅伝の伝統に着想を得たUK駅伝では、英国の大学ランナーたちがチームとして競います。特徴的なのは男女混合。女子5名、男子5名の10人が一本のたすきをつなぎ、一つの大学を背負って、一つの結果を目指します。
日本から英国へ、大学陸上の新たな可能性
日本では、駅伝は大学スポーツ文化の中心的な存在となっています。
箱根駅伝のような大会は、多くの人々を惹きつけ、大学同士の熱いライバル関係を生み、学生ランナーを全国的に知られる存在へと押し上げています。
観客は、チームを応援し、大学のカラーを背負った選手たち、そして一本のたすきがつながれていく物語を見守ります。
選手たちに求められるのは、もちろん長距離走に欠かせないスピード、持久力、規律、そして苦しい場面でも走り続ける強さです。
その個人の力が、より大きな目標のために結集されるのが駅伝です。
選手たちは、それまで走ってきた仲間の思いを受け継ぎ、次にたすきを待つ仲間の期待を背負って走ります。一人ひとりの走りが、チーム全体の結果につながっていきます。
UK駅伝は、日本独自の駅伝文化を英国に伝え、大学陸上を通じて日英の新たなつながりを生み出すことを目指して、2024年にスタートしました。
英国の選手たちにとって、チームワーク、責任、信頼、そして大学を代表して走る誇りを大切にする、新たなスポーツの価値観に触れる機会となっています。
では、どこに観客はいるのでしょうか?
英国では、ランニングが観戦スポーツとして捉えられることは、まだ多くありません。もちろん、オリンピックや大都市で開催されるマラソン大会は例外ですが、国内の長距離レースの多くは、観客が競技を追うというより、参加する選手自身が中心となるイベントです。
これは、多くのチームスポーツとは大きく異なります。
サッカーやラグビー、クリケットでは、観客は特定のチームを応援します。シーズンを通してチームの歩みを追い、一つひとつの試合結果が持つ意味を理解しています。選手選考そのものがチームの戦略の一部であることも注目しています。
UK駅伝には、チームへの帰属意識と、レースが展開していくドラマを生み出す可能性があります。
日本で2日間にわたって放送される2026年の箱根駅伝は、今年延べ5,621万7,000人が視聴したと報告されています(ビデオリサーチ社の視聴データ)。これは、2026年2月8日(日)に開催され、推定1億2,560万人が視聴したスーパーボウルLXにも匹敵する規模です。
駅伝では、観客はたすきを追いながら、自分たちの大学を応援します。たすきが渡るたびにレースは動き、一つひとつの区間が物語をつくり、最終結果へとつながっていきます。
大学生スポーツの新しい形
2026年6月に開催された第3回FT日経UK駅伝では、17の大学チームがウィンザーとレディングを結ぶ112kmのコースを走りました。各チームは女子5名、男子5名の10名で構成され、全員で一つのゴールタイムを目指しました。
10区、約7時間に及ぶレースの末、オックスフォード大学がエクセター大学をわずか6秒差で抑えてフィニッシュ。公式確認の結果、立命館大学が2位、エクセター大学が3位となりました。
アンカーを務めたオックスフォード大学のエラ・デイビー選手は、当時の思いをこう振り返ります。
「これまでで一番素晴らしい体験でした。フィニッシュ地点で観客の姿が見えた瞬間、一気にアドレナリンが湧いてきて、あとは全力で走り切るだけでした。最後のカーブを曲がったとき、エクセターがすぐ後ろまで迫っているのが見えましたが、なんとかチームをトップでゴールに導くことができました。あれほど感情がこみ上げるフィニッシュは初めてです。本当に最高のチームでした」
Ella Davey
「チームをトップでゴールに導いた。」この言葉に、駅伝のすべてが表れています。フィニッシュを越えたのはエラ選手でしたが、その勝利は10人の選手全員、そして大学全体のものでした。
UK駅伝への出場は、大学の名前や歴史、知名度ではなく、結果によって決まります。第3回大会の上位8チームは翌年の出場権を自動的に獲得し、残る7枠は公式予選を勝ち抜いた大学に与えられます。
すべてのチームに高い競技レベルが求められますが、出場資格を満たし、予選を突破できる実力があれば、どの大学にも優勝のチャンスがあります。
大学生スポーツの新しい形
英国で大学スポーツの新たな可能性が見直される中、UK駅伝は誕生しました。
英紙『The Telegraph』も、トップアスリートたちがなぜ競技生活と大学生活の両立を選ぶのか、その背景に注目しています。 一方、別の分析では、 大学が今後のイングランド・ラグビー界で、より大きな役割を担う可能性についても論じられています。.
UK駅伝は、大学陸上の未来の一つの形を示しています。男女が一つのチームの対等なメンバーとして共に競う、全国規模な大会です。
一部の選手にとって、大学時代は、将来有望なジュニア選手からプロや国際大会で活躍するアスリート、さらにはオリンピック選手を目指す上で重要なステップです。UK駅伝は、トップレベルの学生ランナーと競い合いながら、チームを背負って走るプレッシャーと責任を経験できる全国規模の舞台を提供しています。
また、学生ランナーと、スポーツの最前線で活動する企業をつなぐ機会にもなっています。ASICSをはじめとするスポンサー企業は、専門的な知見や新たな機会、そしてプロスポーツの現場への理解を提供しています。ASICSはすでにトップアスリートや次世代選手と直接連携し、トレーニングプログラムや研究、パフォーマンスを追求した製品を通じて、その成長を支えています。
こうしたつながりを通じて、学生たちはトップレベルのスポーツの世界で活躍するために何が求められるのかを知り、次のステップを支えてくれる企業や組織と出会うことができます。同時に、企業にとっても、将来を担う若い才能や、その背景にある大学コミュニティと直接つながる機会となっています。
UK駅伝は、学生、卒業生、そして観客が一つになって応援できる、大学としての新たなスポーツのアイデンティティを生み出します。また、パートナー企業にとっては、大学アスリートを 支援する機会となります。 そして何より、ランナーたちに、これまでの競技では得られなかった経験をもたらします。自分のためではなく、チームのために走るという経験です。